第二章 「夢」

夢。
夢を見ている。
毎日見る夢。
終わりのない夢。
赤い五筒。
流れる親番。
赤く染まったチンイツ。
誰かの泣き声。
子供の泣き声。
ポンカンチーフリテンツモ。

ここは雀荘「鍵の音」。私、ネオ=マータはオーラスの親番を迎えていた。

南4局0本場
 私(親)30,000
上家(メンバー)25,000
対面(親父)23,000
下家(青年)22,000

現状トップ目、何でもアガりきれば無事終了である。然し、誰に満貫アガられても捲くられてしまう僅差なので油断はできない。ドラは七。上家は(8)7をポンしている。役牌トイトイの5200で逆転トップ狙いというところだろうか。下家はマンズとピンズをバラ切りしている。ソーズの染めで満貫狙いだろうか。対面はよく判らない。いかんせん余り猶予はなさそうだ。。

そう思ってたところだったが、6巡目に運良く私に次のような聴牌が入った。

二三三四四四(1)(2)(3)1237 ツモ四

望外の四枚目の四。当然7切りで二三五待ちの聴牌に取るわけだが(そもそも7はポンされて純カラなので、7単騎に受けていれば上がれていたなんてオチがあるはずもない)、問題はリーチを掛けるかどうか。リーチを掛けないと三が出たときロンできないが、リーチしたせいで捲くられるリスクもある。上家は実はタンヤオドラドラの3900の仕掛けかもしれない。そうだとすれば私がリー棒を出した時点でどこからでも捲くりトップになってしまう。

私は悩んだ末、「迷ったときはリーチ」という、雀Key会の格言に従って牌を横に曲げた。後は麻雀の神様に身を委ねるだけである。

…気が付くと私はベッドの上にいた。ここは雀荘…ではなく私の家。どうやら私は夢を見ていたようだった。時計を見るとまだ夜中だ。裏メン業は大抵徹夜でやることになるので、週末くらいはぐっすり寝ていたいというのにこれだ。全くやれやれだ。急に目覚めてしまった不運を恨めしく思いながら、私は再び布団の中に潜り込んだ。

夢。
夢を見ている。

二三三四四四(1)(2)(3)1237 ツモ四

…何だ。さっきの夢か。しかもこの場面からとか、一体いつこんな器用な夢を見れる特技を習得したというのだ。

さっき急に目覚めてしまったということは、リーチが失敗だったのだろう。よし、今度はダマにしてみよう。

次巡。

二三三四四四四(1)(2)(3)123 ツモ一

おお!良いところを引いた。これで打四とすれば、今度は三色確定でダマで三が出てもアガれる。今度こそ勝った!

…気が付くとまたベッドの上にいた。時計を見るとまだ夜中だ。何だ何だ。またダメだったのか、それにしても変な夢だ、もう見ないでくれよ。私は再び目を閉じた。

夢(ry

二三三四四四(1)(2)(3)1237 ツモ四

…おいおいまたか。勘弁してくれと言ったじゃないか。とりあえず打7ダマ。すると次のツモは一、他家の捨て牌も変わらない、どうやら自分の打牌以外は固定されているようだ。

ということは、もし全てを知り尽くしている麻雀の神様であれば、ここから勝てるというのだろうか。だとすれば、常軌を逸した打牌をやれということなのだろう。

常軌を逸した打牌としてまずやりたくなるのはこれだ。四カン!

一二三三(1)(2)(3)123 伏四四伏アンカン ツモ(8)

カンドラは(3)(8)はポンされているので純カラなので待てない。夢の中なら5枚目でもツモれそうなもんだが、5枚目の牌を他家に公表するわけには流石にいかないだろう。

…そうか、このペンチャン単騎の三待ちでリーチしろということなのだ。四のアンカンで三を狙い打つ!まさに芸術的!美しく、そして何と鮮やか!これが雀Key流秘奥義其ノ拾壱!爆牌りいいいいいち

「おっと、それだ。」

何故か牌を倒したのは対面の親父だった。

三三五六七(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(9) ロン(8)

「流石に残り一枚じゃリーチに行けなかったよ。カンドラが乗って5200。おや?そっからなら逆転トップじゃないか、デバサイってやつか。リーチかかったら三の対子落しで回そうかと思ってたよ。ガハハ。」

…気が付くとまた(ry どうやらカンは死亡フラグらしい。(8)を切らなければ対面がアガることはないが、どうせ今度は二副露の上家に捲くられるというオチであろう。勝つまでこの夢は終わらないというのだろうか。ならば勝ってこの忌々しい夢に自ら終わりを告げるまでだ。私は再びまどろみの世界に飛び立った。

ゆ(ry

二三三四四四(1)(2)(3)1237 ツモ四

またここからだ。打7。ここは間違いないだろう。

二三三四四四四(1)(2)(3)123 ツモ一

二回目はここで四を切った後夢から醒めているが、それはもう勝ったと思い込んでしまったからではないだろうか。今度はその後の展開をきっちり見てみることにしよう。

上家と下家はツモ切りを繰り返しているが、対面が手出しで(9)を切ってきたことが確認できた。1枚しかないカン(8)を嫌って聴牌を外してきたのだろう。

一二三三四四四(1)(2)(3)123 ツモ一

ツモは再び一、一見ツモ切りで良いようだが、ここでツモ切ると恐らく失敗する。敢えてここは待ちを二五に狭めて再び打四としてみる。

一一二三三四四(1)(2)(3)123 ツモ一

何とツモはまた一だ。再び打四二三五待ちとなる。ひょっとするとこれは…私は確信めいたものを感じた。そう、次のツモは…

一一一二三三四(1)(2)(3)123 ツモ一

キター(゜∀゜)≡ これぞ最終形だ!同時に私は二回目までの失敗の理由にも気付いた。下家の変則的な捨て牌、実は国士狙い!待ちはもうこの四枚使いの一しか有り得ない。私は役満の餌食になっていたのだ。でももうその心配は無い。雀Key会の格言「最終形なら尚更リーチ」に従ってここはリーチだ! ここまでくれば一発目のツモは二、そして裏ドラが一!リーチ即ツモ純チャン三色イーペー裏4。16,000と10枚オール(鍵の音では役満祝儀はロン10枚ツモ5枚オールで、数え役満にも適用。役満祝儀と他の祝儀の複合もアリ)だ!

私は左手で捨て牌を抑え、両手を使って牌を横に曲げた。

雀Key会秘奥義其ノ廿参。あとみっくりいいいいいいいち!

手牌:一一一一二三三(1)(2)(3)123
 河:西北(9)白八7
   四四四曲四

二段目に四連続で並ぶ四。手牌もこのうえなく美しいが、河もそれに勝るとも劣らないくらい美しい。なんという芸術作品であろう。これこその手順!嗚呼、目が眩むようだ。。

恍惚としていたら下家の青年が強打してツモ切りリーチを掛けてきた。やはり聴牌していたか。然し残念!もうお前の当たり牌は残っていない!私の勝ちは揺るがない!

「生牌だが…ええいこうなったら勝負!リーチ!」

何と対面の親父まで生牌の発をツモ切って追っ掛けてきた。しかもその発を上家のメンバーがポン!「な、何?ツモをずらされた?」

然し冷静に考えれば飛ばされたツモは下家に行く、下家と同テンは絶対に有り得ないから、下家の捨て牌でロンできる。やはり私の勝ちは揺るがない!…、次積もってくる牌さえ他家に通っていれば。。だがここで命運尽きたのか、ツモは真っ赤な真っ赤な(r5)「た、頼む。通してくれ。。」

私は力なく(r5)を河に置いた。…終わったか? …誰からも声がしない、おお!助かった!助かった!生き延びた!何たることだ。奇跡は起きた。…後は下家が二を掴むだけだ。下家は恐る恐るツモ山に手を伸ばす。「さあ、とっとと引くんだ!」

「あっ!」

下家が大声を上げた。

「ツ、ツモォォォォォ!」

…な!そ、そんな筈があるわけがない!一体どういうことだ!

九(1)(9)19東南西北白白發中 ツモポ

「た、確かに当たり牌だった。。」

「裏ドラが一なので、裏とポッチ含めて8,000−16,000の7枚オールですね。」

「お、親被りでラス。。」

…すっかり目覚めてしまった。もう眠る気にもならない、とりあえずこの悪夢からは開放されたのだろうか?

後日「鍵の音」にて、私は会長に今回の夢の内容について話した。

「はっはっは。そんな夢を見るとは、すっかりジャンキーになってしまっているみたいだな」

会長は笑いながら、煙草に火を点ける。

「然しお前もアホだな。」

「え?どういうことでしょうか。」

会長は言葉を続けた。

「最初に一を引いた時に、三を切れば良かったじゃないか。」

「あ!」

「そうすれば、次の一でお前のツモアガリだ、しかも三を切るのはそのタイミングでなければいけない。三色を付けようと欲張って次巡以降に三を切れば、恐らくドラの七辺りを引いて(9)を切って聴牌を外した対面に鳴かれて喰いタンの聴牌を入れられてしまう。そうすると次の一は対面に流れ、ツモ切って下家の国士にぶち当たるというわけだ。」

一二三四四四四(1)(2)(3)123 ツモ一

どうみても三色に見える、ただの500オール。然しそれは実に神秘的で、鮮やかで、実に美しい。

 

今回の雀Key会語録 麻雀は芸術だ!芸術は爆発だ!

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