第九章 「トランプ中編」

雀Key会メンバー達の仁義無き闘いはまだまだ続く! でんででんでん。

その2 ブラックジャック

ババ抜きが皆でわいわい楽しむトランプ遊びの王道であるならば、ギャンブルとしてのトランプ遊びの王道はブラックジャックであろう。ブラックジャックは公開されているカードから山に残っているカードを予測し、自分の手と合わせて押すか引くかを決めることが重要となる。この点は麻雀と非常に似ている。ただ麻雀と異なりブラックジャックにおける選択は極めて単調なものである。故にゲーム性が低いので、ギャンブルとして―即ちお金を賭けてやらなければ楽しくないと私は考える。(但し、一ゲームにかかる時間は麻雀より圧倒的に少ないため、単調な選択とはいえその選択の精度は長くやればもろに結果に反映される。この点で、麻雀より実力差が出ると言えるかもしれない。)

よって、当然お金を賭けてやることとした。雀Key会はただわいわいとやることを良しとしないシビアな集団だ。と言っても、掛け金に上限がないととんでもないことになるし、下限がなければ不利な勝負は全部1円みたいな賭け方をされて興ざめとなる。よって、最初のベットの上限を500円、下限を100円とした。これで普段の麻雀以上に金が動くということもないだろうという読みである。

他のルールに関しては、一般的にカジノでプレイされているルールに準拠するものとした。

ルール参照「トランプ・ブラックジャック」  但し、ややこしいというのと、掛け金の最高額を1,000円までに抑えるという理由で、再スプリット、スプリット後のダブルダウンはなし、滅多にやる機会のないインシュランスもなしである。

大量のトランプを使うのはかさばるので、使うデックは2組、ゲームが終わったとき山札の75%以上(つまり、104枚の75%で78枚以上)を使用したら山札を切り直す。ブラックジャックは親と子で有利不利が出る(ルールによって若干変わる)為、親は皆同じ回数だけやるものとする。

…この辺のルールを律儀に決めるのも雀Key会ならではである。然し、このままでは少し物足りないと感じたメンバー達は、何かオプションを付けようと考えた。そこで考案されたのが、手役ボーナスである。一般的なカジノでボーナスの付く手役と言えば、2枚で21になるブラックジャック(ナチュラル21とも呼ばれる、配当が1.5倍となる)くらいなものであるが、これらを更にマークが同じなら配当2倍、AJの組み合わせなら配当3倍、AJで更にマークも同じであれば…というように、2枚役の上位種を複数採用。他にも、777、678の3枚役(出づらいので配当は高目にしてある)。手札が6枚以上になっても21を超えなければ3倍等の枚数役を採用することとした。綺麗で難易度の高い手に役を付ける。まさに麻雀打ちがやりそうなルールである。棒テン即リーを基本とし無理に手役を狙わないタイプの私であるが、それでも難易度の高い役を和了ことには浪漫を感じる。麻雀と違ってブラックジャックは一ゲームにかかる時間も短い為、高い役同士がぶつかり合うようなシチュエーションも十分期待できる。親と子が共に役含みであれば配当が高い役の方が勝ち、通常親にはブラックジャック等のボーナスは付かないのであるが、子にばかり色々役があっては親がつまらないので、親も役を完成させた場合は同様にボーナスがつくこととした。2倍役で子全員に勝ちなら子からそれぞれ掛け金の2倍を得ることができる。実にエキサイトできそうなルール設定だ。

ボーナス役の採用は目論見通りとなった。これが実に楽しい。大物が見えているときの場のボルテージは高まるばかりである。このルールで行われるようになって間もなく、ブラックジャックはメンバー内で一番プレイされる頻度の高いゲームとなった。

とある日のこと、その日も麻雀の後でメンバー五人でブラックジャックに興じることとなった。その日の麻雀は余り大物手が出なかったのであるが、何故かブラックジャックではボーナス役がガンガン出来る展開であった。

私「最初の親でいきなり一枚目がA、これは貰ったな」

当然皆掛け金は100円、と思ったら何故かどらの奴は500円。ということは奴の手もまたAなのであろう。

ど「2枚目ドロー、またAだからスプリット。掛け金さらに500…よっしゃ!どっちも2枚役!しかも2倍役と3倍役!

私「…マジッすか?」

これだけでいきなり2,500円の損害。つかん。

次のゲームは枚数役が熱かった。まずいきなり天野が6枚引いて3倍役を完成。そしてなんとTも6枚引いて3倍役を完成…と思ったら、7枚役は10倍、8枚役は50倍と書かれた手役表に釣られたのか、普段はチキンのくせに、限界までいく、倍プッシュだ!とまるでアカギみたいなことをほざいている。結果は書くまでもない。ぐにゃー。…大体もう一人6枚引いてる奴がいるんだから、数の小さいカードは余り山に残っていないと読めたはずである。こんなカッコ悪いアカギは見たことがない。ニセアカギ以下である。

その後も手役以外でも、2枚で19、20等の好ハンドがどんどん出る展開であった。そして山札も少なくなる。そろそろシャッフル時かと思われたが、数えてみると残り27枚。ギリギリで次のゲームまでこのままで行われることとなった。親は真琴である。

一般的にデックの枚数が少なくなれば少なくなるほどカウンティングがし易くなって子が有利となる、しかも真琴の今回の一枚目のカードはハートの6。6というのはバースト(ブタ)を引き起こしやすく手役にも絡みにくい弱いハンドだ。こちらはスペードのJ。迷うことなく最高額の500円をベットする。そうすると他の面子も全員500円だ。子方は皆強いハンドのようだ。

力を込めて二枚目をドローする。…何と、こんなとこに居よったか。一際大きいスペードのマーク。最強の2枚役、純正ブラックジャック(5倍役)の完成である。今日は本当に大物が飛び交う日である。残りの子方も全員2枚でストップ。手役は入ってなくとも少なくとも17以上だろう、6で勝てる可能性は低い。

ま「あうう。真琴を皆でよってたかって苛める気?」

私「そりゃあそんなゴミハンド見せられたらなあ」

ま「ふん。ゴミも拾えば宝なのよぅ」

…何か勝負師伝説哲也に出てきた盲目のおっさんのような台詞を吐いている。残念ながら、ゴミは拾ってもやはりゴミなのだ。仮にその手からうまい具合に21になったとしても、こちらに5倍役が入っている以上大敗は免れない・。どんなに不利な勝負でも受けなくてはいけない親がここで回ってくる自分の不幸を呪うしかないのだ真琴。

…と、余裕をこいていたのだが、ふとこれまでも試合展開を思い出してみる。派手な手の連発であった。ブラックジャックや2枚で19、20が連発したせいで絵札や10等の大きい数字は大量に消費された。そして一ゲームに6枚役を二人完成させる(約一名自爆したが)という珍事件が起こったため小さい数字もほとんど残っていない。27枚の状態から今9枚引かれたので山には18枚。しかも9枚のうちの半分は10以上であることも判る…ということはあの山には中くらいの数字―6や7や8がごっそり眠っているということではないのか?

6や7はブラックジャックにおいては一番使いづらいところである。麻雀で言えば字牌のようなものである。だが字牌はかき集めれば超大物手にも成り得る。とはいえ、通常の場ではやはり字牌から先に切られるのが普通である。…だが、非常と呼べる状況下では別っ!この場はまさに異常っ!麻雀で字牌が異様に高い場があるように、この場は6、7が奇妙なくらい激高っ!序盤の大物手連発という異常事態がさらなる異常事態を引き起こしているっ!ざわっ!ざわっ!

嫌な予感が襲う、とは言っても、それでもまだまだ確率的に有利なのは理解している。だが親なのは何故か肝心なところで大物手を引き和了る役満大好き娘の真琴なのだ。。

「やったぁ♪」

…見事に予感的中。真琴のハンドは678と綺麗に並んでいる。しかもあろうことか全部ハートである。通常の678は5倍役、全部マークが同じ678と777は同難易度で20倍に設定してある。正直なところ、これでも余り割に合ってないと考えていた。子で最初の数が6や7だった場合。基本不利だから掛け金はどうしても安くなるから、出来ても大した収入にはならなくなるからである。然し、親となれば話は別!逆に子が有利と判断して大金を掛けてくるのであるから。。

親の総取り。これがインフレルールの恐ろしさ。インフレルールの親はリスクが高くて自ら進んで受けることを躊躇いがちになるが、ずっと続けていれば確実に勝ち分が増えていくのである。麻雀でもずっと親のままならいいのにといつでも思う。

さて、しめて1万円オールである。って、小銭のやりとりをする筈なのにそんな大金を持ち合わせているわけないぢゃないか。こちとら最近出費がかさんでぴーぴーなんだ。

…というわけで、私は自分の妹相手に借用書を書くという、世にも珍しい恥ずかしいことをやることと相成ったのである。兄の威厳、まるでなし。

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